生活保護と差別意識

04.じんせいのこと
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政府による、国民ひとりあたり10万円の一律給付が決まりそうだ。10万円で足りるかはわからないが、このご時世、お金に困っている人は多いだろうから、すごく助かる。

この一律給付をめぐっては、政府内でも議論が二転三転していた。はじめは「本当に困っている人々」つまりコロナショックを受けて減収した人や、住民税非課税世帯に絞って、支給が検討されていた。

最終的に「スピード感が大切」ということで、全国民への一律給付となった。ただ、ここでひとつ議論が出た。生活保護世帯への、給付の是非である。

生活保護世帯というのは、毎月の保護費によって生活をまかなっている。諸事情により、すぐには働けない人も多く、そういった人たちは、税金を原資にした保護費で生活している。

こういった生活保護世帯に対して、給付金を給付してもよいのか、という議論である。ネットでは、「保護費をもらったうえに、給付金までもらうのか」「ズルい」「不正受給が増える」「いい暮らしをしている」といった意見が見られた。はっきり言っておくが、すべて見当ハズレのトンチキで、バカな意見である。

第一に言いたいのが、「全国民への一律給付」は、まず給付のスピードを考えて実施されるものだということだ。給付の条件を設けるとすれば、生活保護以外にも、世帯所得、年金受給の有無など、様々な条件を考慮して、給付世帯の絞り込みを行わなければならない。

しかし、これでは遅きに失する可能性がある。そのため、政府は「全国民への一律給付」に踏み切ったのだろう。それなのに、この期に及んで「生活保護受給者は受給対象外に」などと横槍を入れて、意思決定を遅らせるのは、議論の流れをまったく見ていない、本当にバカである。

第二に、生活保護受給者も、当然ながら日本国民であるということである。「全国民への一律給付」であるから、生活保護受給者も、当然受給する権利を有する。これを否定するということは、「生活保護受給者は国民とみなさない」ということだが、なんの権限があって、そのような発言をするのか。

生活保護とは、行政の一制度であり、制度利用者の行為は一部制限されることがあるものの、基本的な権利を制限されることはない。生活保護受給者に対する一律給付に反対することは、立派な権利侵害である。

第三、生活保護受給者に対して「ズルい」と思うことについて。本当に卑しい感情だと思う。生活保護受給者がズルい・うらやましいと思うなら、あなたも生活保護受給者になったらどうだろうか。仕事をやめて、親類縁者と縁を切り、頼るものがなくなった状態で役所へ行けば、生活保護を受けることができる。簡単なことである。

それに、生活保護受給者が給付金を受給したところで、いったいあなたになんの損害があるというのか。たしかに、一律給付の原資は税金だが、10万円を受給できるのは、全国民ひとしくおなじだろう。なぜ、生活保護受給者だけを槍玉にあげるのか。「働いていないのに、給付金を受け取るのはズルい」という理屈だろうが、そういう「もっともらしい正義」は、果たして正しいのだろうか。

結局、生活保護受給者に対する差別意識がある。生活保護受給者を見下しているのである。やむをえず働けない人、税金から保護費を受けている人たちに対して、よからぬ感情を持っているのだろう。生活保護受給者を「一段下」に見て、彼らのことは手前勝手な正義の棒で叩いてもいいと思っている。たいした倫理観であるし、「もっともらしい理屈」で他者を攻撃するのは、さぞかし気持ちがいいだろうが、これは立派な差別である。「お気持ち」でしかものを考えられない、バカな日本市民の差別意識が露呈している。

諸外国では、差別は「あるもの」と認識されているから、常に「差別はやめよう」「差別はよくない」というメッセージが、強く発信されている。素晴らしいことだと思う。

日本人は、差別に対して、極めて無自覚である。「日本には、差別はありません」平気でそんなことをうそぶく。しかし、日本人の差別意識は、暗く、根深い。実際、この一律給付と生活保護受給者の一件でも、日本人の陰湿な差別意識が、ありありと表れていると思う。

生活保護、決してタダ飯を食らっているわけではない。生活に様々な制限が課せられる。病気などで、ままならない状況の人も多くいる。自立・自活のために、着々と歩みを進めている人もいる。であるのに、世間の人々からは「税金で飯を食っている人々」という印象が強いのだろうか。

勘違いしてはならないことがある。税金を払っているのは、たしかに私たち個人だ。しかし、保護費を支払っているのは、各自治体である。税金も社会保障費も、私たち個人のものではない。私たち個人は、自治体に対して文句を言う権利こそあれ(具体的には、陳情や投票ですね)、生活保護受給者に対してものを申す権利は、どこにもない。

そして、生活保護受給者も、一国民としての権利は保障されている。給付金を受給する権利もある。生活保護受給者に対する「ズルい」という感情は、本当に卑しくて貧しいものだし、法と権利が理解できていない。バカを露呈するものだと、ここにハッキリ書いておく。

一律給付は、やはり全国民に対してなされるべきだと思う。「本当に困っている人へ」という議論もあったが、どうやって「本当に困っている人」を定義するのか。話し合うだけムダである。

生活保護受給者への一律給付を反対する人を見て、この国には「権利」の意識もなければ「差別」への自覚もないのだと、心の底からゲンナリしてしまった。コロナ禍を経て、いろいろと権利意識の低さが露呈している。このまま、中近世のころまで国家は後退して、「基本的人権」の概念は喪失してしまうのではないか。そんな危惧を持っている。

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