健康診断

04.じんせいのこと
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「お酒は?」

「飲みますね」

「すぐにやめてください。タバコは?」

「吸いますね」

「すぐにやめてください。ラーメンとかは?」

「好きですね」

「すぐにやめてください」

3年前、歌舞伎町の病院で、勤めていた会社の定期検診を受けた。検診を受けてからしばらくして、結果が出たので病院へ取りに行った。

仕事を中抜けして、病院へ向かった。病院の受付で検査結果を受け取って、そのまま会社へ帰ろうとした。そしたら、受付の人から「〇〇さんは、問診がありますので、診察室の前ですこしお待ちください」と言われた。

診察室の前の椅子にすわって、診断結果をざっと眺める。健康診断の結果は、散々だった。日ごろの不摂生の結果だろうか、総合判定はA~Eの5段階中、最悪のE。BMIと体脂肪率、肝数値と尿酸値(尿酸値が高いと痛風になる)が悪いらしかった。

「〇〇さん、どうぞ」

名前を呼ばれて、診察室に入ると、とてもとても険しい顔をしたお医者さんが、椅子に座って待っていた。

「〇〇さん、おいくつですっけ」

お医者さんは、私にそう聞いた。

「32歳です」

私が年齢を答えると、お医者さんはますます険しい顔になって、

「このままだと、40前には死にますよ」

と言った。

「あと8年で死ぬんですか」

いきなりキツいことを言われて、私はあっけにとられた。

お医者さんが言うには、私の身体はブヨブヨ、血液はドロドロ、血管はボロボロ、内臓はグズグズらしい。とくに尿酸値は、正常上限7.0に対し検査値9.5と大幅にオーバーしていた。すべて、日ごろの不摂生が原因だという。

「尿酸値が高すぎるって、痛風になるかもしれないってことですか?」

私がそうたずねると、お医者さんはすこしイラッとした様子で

「というか、もう痛風ですね。発作が出ていないだけで」

と答えた。

「紹介状を書くので、すぐに病院へ行ってください。治療が必要です。お酒とタバコとラーメンは、すべてすぐにやめること。いいですね」

そう言われ、問診が終わった。

受付で紹介状が入った封筒をもらって、病院を出た。

(40で死ぬのは、イヤだなァ)

(もうお酒もタバコもラーメンも、ダメなのかァ)

アレもコレもやめろと言われて、だいぶんションボリしてしまった。歌舞伎町の病院から、新大久保駅まで歩いて向かう。時刻はお昼どき。途中で、おいしいつけ麺の店を見つけた。

(コレが食べおさめだから……)

(ちょっとくらいは、大丈夫……)

さっき「やめろ」と言われたばかりなのに、私は大盛りのつけ麺を食べてしまった。

つけ麺を食べて、会社へ戻る。上司から「結果はどうだった?」と聞かれたけど、さすがに「40前には死ぬそうです」とは言えず、笑ってごまかした。

家に帰ってから、お医者さんの言葉を思い出して、だんだん腹が立ってきた。なんで知らない他人から、チクチク小言を言われなきゃいけないのか。「40前には死にます」って、おどしにしてもひどくない?

カバンのなかから、お医者さんからもらった紹介状を取り出す。グチャグチャに丸めて、ゴミ箱に捨てた。健康診断の結果のことも、キレイに忘れることにした。

あれから3年経つ。あれからも不摂生を続けていたら、お医者さんが言っていたとおり、ガッツリ体調を崩した。体調を崩しすぎて、会社もやめるハメになった。

いろいろあって、お酒はやめた。ラーメンはやめられていないけど、極力控えている。タバコは……がんばっている。

健康診断は、毎年受けている。年々数値はよくなっている。3年前は9.5だった尿酸値、去年は7.2まで下がった(まだ高すぎるのだけど)。

今年、35歳になる。お医者さんは「40前には死ぬ」と言っていた。あと5年か。ここ何年かは、ヘルシーな生活を心がけている。体重も15キロ減らしたので、多少は寿命も伸びているかもしれない。というか、伸びていてほしい。

30代になってから、健康診断の結果を見るのが憂うつになってきた。ここ数年は健康な生活を心がけているのに、毎年なにかしら引っかかる。これが中年になるということなのだろうか……。

20代のころは、健康診断で引っかかることなんてなかった……健康診断の前日に痛飲して、二日酔いのまま診断を受けても平気だったのに……寄る年波には勝てないし、身体は正直なんだろう。

「40前には死にますよ」というお医者さんの言葉、40歳が近づくにつれて、ジワジワ効いてきた。歳をとるにつれて、死への恐怖が身近になってきた気がする。死ぬのは怖いので、早寝早起きをして、野菜をたくさん食べ、適度な運動をしている。

長生きをしたいとは、あまり思わない。だけど、長いあいだ健康でいたいとは思う。病気になって、寝たきりになったり、後遺症を負ったりするのはつらいな……死ぬまで健康でいたい。健康のまま死にたい。

死なないために、いろんなものをガマンしている。アルコール、炭水化物、脂質、夜ふかし、などなど……タバコを吸うときも、強い罪悪感や恐怖に苛まれながら吸っている。

ガマン、ガマン、ガマンばかりで、ときどき「なんのために生きているのか……」と考えてしまうのだけど……生きるために生きているんだよな。すくなくとも、40前に死ぬのはイヤだ。生きるために、摂生をしている。

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