おかねのけいさんできません

02.メンタルヘルスのこと
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痛ましい事件が起きた。事件の概要は以下のとおり。

訴状などによると、男性が1人暮らしをしていた大阪市内の市営住宅では2019年11月、自治会の班長を住民同士がくじ引きで選ぶことになった。男性は障害を理由に選考から外してもらうよう役員らに求めたが、「特別扱いできない」と聞き入れられなかった。

役員らは集会所で男性と対応を話し合った際、障害があることや日常生活への影響を記すよう要求。男性が書面を作成すると、役員らは他の住民にも書面を見せて男性のことを紹介すると説明したという。翌日の11月25日、男性は自宅で命を絶った。

https://mainichi.jp/articles/20200731/k00/00m/040/044000c

あきらかなアウティングである。男性自身は、自身の障害について他者に明かされることを望んではいないのに、自治会の役員たちは「他の住人の理解を得るため」に、男性の障害について第三者に明かそうとしている。

「アウティング」とは、一般的にLGBTのあいだで使われてきた言葉。私は、LGBTにかぎらず、当事者性・マイノリティ性を暴露する意味で使っている。

この男性でいえば、知的障害・精神障害の当事者であることが明らかになることを望んではいなかった。なのに、自治会役員たちは、男性に対して障害について書面にすることを強要、さらにその書面を「他の住人にも見せる」と言った。非常に悪質なアウティングである。

アウティングのなにがダメか。いろいろあるけど、いちばんはやはりプライバシーの権利がおかされることだと思う。障害者であることを知られることの不利益は、今日でもまだ大きい。平等にはほど遠い。障害を隠せるものなら隠したい当事者というのは、まだまだ多い。

また、当事者であることをカミングアウトするかどうかは、当事者本人にゆだねられるべき権利であって、第三者がゴシップ的なオモチャにしていいものではない。

記事中で、自治会役員から「どうすれば他の住人の理解を得ながら、男性を班長選出から外せるか模索した」と述べられている。

一方、役員は「どうすれば他の住人の理解を得ながら、男性を班長選出から外せるか模索した」として、強要を否定。

https://mainichi.jp/articles/20200731/k00/00m/040/044000c

まるで要件のように述べられている「他の住人の理解」とは、いったいなんなのだろうか。

「他の住人の理解」などなくとも、選出から外してやればよかったのに。自殺した男性の尊厳や命よりも、「他の住人の理解」が大事なのか。人権後進国・日本! という典型的な事件で、失笑を禁じえない。

しかも、「他の住人の理解を得る」ための方法が「男性の障害をみんなに紹介する」というもので、もう噴飯モノである。

男性が記した障害についての文章は、記事中にもある。「私はこれができます」「私はこれができません」ということを紙に羅列したもの。いったいなんのために、それを、他の住人たちに見せるのか。その紙を見せれば「他の住人の理解」が、本当に得られるのか。

自殺じゃない、殺人だ。自治会役員たちが、男性を追い込んで、殺した。当事者にとって、当事者であることとは、自身の尊厳に関わることだ。自治会役員たちは、男性の尊厳を踏みにじって、殺した。

怒りが抑えられない。障害当事者に対してカミングアウトを強要し、さらにアウティングを示唆して、そのたてつけで「他の住人の理解を得るため」と開き直っている。

障害のあるなしに関わらず、だれだって人に言いたくないこと・秘密にしておきたいことのひとつやふたつ、あるだろう。知的障害や精神障害のように、外から見えない障害というのは、極めてセンシティブな秘密なんだ。

私は、双極性障害(躁うつ病)と発達障害という、ふたつの障害を持っている。インターネットでは、自身が障害当事者であることを明かしている。しかし、現実では、自身が障害当事者であることは、ほとんど誰にも明かしていない。

理由はふたつ。ひとつめ、不利益が大きいこと。さっきも書いたけど、障害者であることで受ける不利益は大きい。障害者であることを明かしてしまうと、健常者と平等には扱ってもらえない。

ふたつめ。アウティングが怖い。たとえ信頼している人にでも、自身が障害者であることは明かせない。なぜなら、なにかのきっかけで、それをバラされるかもしれないから。

以前勤めていた会社で、私にパワハラをしていた先輩から「お前、なにか隠しごとをしてるだろ」と詰問された。それで私は、いま心療内科へ通っていることをゲロってしまった。

そしたら、次の日には「キチガイ」というアダ名をつけられて、さらに私が心療内科へ通っていることが職場じゅうに周知されていた。こういうことがあるから、自身の障害については、絶対に人に話したくない。

繰り返しになるけど、尊厳の問題なんだ。だれしも「知られたくない」ことがある、「触れられたくない」ことがある。それを知ろうとするべきではないし、触れるべきではない。

障害じゃなくてもいい、ペニスのサイズとか、吃音とか、鼻の高さとか、指の長さとか、人によってそれぞれ異なるけど、「触れてはいけない」ことがある。そこに触れてはいけないし、それをいじったり、触れ回ったりしてはいけない。人の尊厳を傷つけてはいけない。

尊厳が傷つけられると、身体を傷つけられたのとおなじように痛むし、ときには死に至る。私だったら、精神障害で心療内科通いだったことは事実だとしても、「キチガイ」というアダ名をつけてはいけない。尊厳が傷つく。

障害をアウティングされ、尊厳を傷つけられた結果、男性は死んで、殺されてしまった。しかも「他の住人の理解を得るため」というくだらない理由のために。

2020年にもなってこんな事件が起きていること、日本人として恥ずかしい。この国は、いつになったら「人権」を理解するのだろうか。

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