文章組手第34回「釣り」

この記事は約3分で読めます。

バカは何度でもだまされる。

以前、アメーバピグというウェブサービスで、ネカマをしていた。「あまなつ」という名前も、もとはネカマ時代につけた名前である。

「どうしてネカマなんて」と思われるかもしれない。単に変身願望が強く、「インターネットでくらい女の子になりたい!」と思ったから、無邪気にネカマをやっていた。

当時の私は、金城学院大学(名古屋のお嬢様大学)2年生、20歳の女子大生。名古屋市内の実家住み。裕福だけど親は厳しめ。彼氏はいない。という設定。

インターネットで女性をやっていると、当たり前のように男性からアプローチを受ける。「顔が見たい」「名前が知りたい」「声が聞きたい」このへんはまだマイルドなほうで、「胸が見たい」「※※※が見たい」と要求されることもあった。

このころから、アメーバピグでの「釣り」にハマった。魚釣りではなく、男釣り。性欲にかられたバカをおちょくる遊び。

私は、ネカマとして、あらゆる要求にこたえた。「顔が見たい」と言われれば、インターネットからプリ画を拾ってきた。「名前が知りたい」と言われたので、即席で「寺田ミキ」という本名をしつらえた。

声を聞かせるのは技術的にムリだったけど、「胸が見たい」「※※※が見たい」と言われれば、海外サイトからテキトーな画像を拾って送りつけていた。

何人かの男性とやりとりをしているなかで、ひとりが「会いたい」と言い出した。仮に慎一とする。

慎一とは、Skypeでやりとりをしていて、顔やその他の写真も交換していた。自称37歳、さえないオッサンだった。慎一は名古屋市内に住んでいるらしく、ミキちゃん(架空)に「大人のセックスを教えてあげたい」と言ってきた。

(大人のセックス、気持ち悪いな!)すごく寒気がしたので、とっさにブロックしようかと思ったが、せっかくのオモチャを手放すのはもったいない。

「じゃあ、金曜の19時に、松坂屋の前で待ち合わせよ」

そう連絡すると、慎一から「( ̄^ ̄ゞ」と返事がきた。

当然だけど、ミキちゃん(架空)は現れない。翌日Skypeを開くと、慎一から大量のメッセージが届いていた。ゴチャゴチャ言われたけど、

「ドタキャンしちゃってゴメン、急に体調が悪くなっちゃって(><)」

と送ったら黙った。そして慎一から

「次はいつ会える?」

と言われた。

(懲りないのか……)そう思いつつ

「来週の土曜の夜に三越の前で!」

と、約束を取りつけた。

当然だけど、ミキちゃん(架空)はあらわれない。翌日Skypeを開くと、また慎一から

「本当に女?」「会う気あるの?」「からかってない?」「ちゃんと連絡してよ」

そんなメッセージが大量に届いていたが、ミキちゃん(架空)がメンゴしたら許してくれた。しかも、またまた「いつなら会える?」と言い出した。

(さすがにそろそろ察してほしいが……)そう思いつつ、今度は平日昼間を指定してみた。サラリーマンなら、平日昼間はムリと言うだろう。

しかし、慎一からは「( ̄^ ̄ゞ」と返事がきた。マジか。

3度目の待ち合わせは、13時に、名古屋駅の金時計の前。当然だけど、ミキちゃん(架空)はあらわれない。そのかわりと言ってはなんだけど、私が行った。有給をとって行った。

13時すこし前に、慎一が金時計前にあらわれた。交換した写メのとおり、猫背でさえないオッサンだった。私は、さりげなく慎一に近づいた。

そして、スマホからSkypeのチャットでネタバレをした。ミキちゃんは存在しないこと、私は男であること。すべて虚構であること。いま慎一の姿を見ていること。

私のとなりのとなりくらいに立っていた慎一は、とっさにまわりを見渡していたが、私を見つけられるはずはない。慎一は、生じろい顔を真っ赤にして、その場から立ち去っていった。

これ以来、釣りをするのはやめた。バカは何度でもだまされる。だまされるバカの身になって、人をだますのはやめようと思った。

タイトルとURLをコピーしました