いつまでも子供のままね(第62回短歌研究新人賞 応募作)

07.趣味のこと
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「いつまでも子供のままね」うしろから私に向けられた笑い声

雛鳥もいつかはひとり羽ばたいて私に羽は生えてないけど

「ありません」悔しさに俯いていつか両手は握りしめたままで

しゃがみキックで画面の隅に追いやられ垂直ジャンプ繰り返し死ぬ

親許を離れ遠くの街に暮らす 羽のない鳥名前のない猫

「駅員への暴力は犯罪です」踵を蹴られて改札くぐる

毎朝の糧のコンビニおにぎりはいつも涙味 泣いてないのに

パソコンの画面に映るエクセルのセルに入った数字が溶ける

朝夕の薬を飲んで繰り返す日々の暮らしに夜毎涙す

減っては増え増えては減る銀行の口座残高を眺めて眠れず

「私の苦痛は私だけのものだ」触れる人の温度が辛くて

父母恋人友人同僚、そしてそこからいなくなる私

世の中でいつか少女は俯いて頷くだけの子供になった

酔うごとに頭に響く笑い声一人の帰路に足を竦ませ

口の端の吐瀉物を指で拭う日々は連綿と続いていく

金曜の深夜湯船に身を浸す瞼は熱く目玉湯に溶け

週末は鳴らないアラーム生活は繰り返していることを知った

私のたった一つの大切な居場所自宅トイレの便座の上

若くしてこの世を去った友人の最後の言葉は知らないけれど

「電源を切る」みたいにさ 人生の終わりを迎えられたらいいね

目の前を猛スピードで通過する列車の向こう人影多く

「みなさん長い間お世話になりました」いたずらの日々を返せよ

毎月の家賃の自動引き落とし 私がここに生きてる証左

毛布に包まり生を考える 孵化する前に死ぬ蛹もいる

「私はここにいる」声を絞り出す部屋の白壁に滲んで溶ける

魂の重さは二十一グラムとネットに書いてた 命の重さは

「私の苦痛は私だけのものだ」冷えた空気が肌を撫でていく

最後だけ私の意志で(竦む足)生きているんだ爪先を蹴る

「ありません」と呟いて笑顔で中央特快に吸い込まれ、春

「いつまでも子供のままね」笑い声はもう聞こえない蛹は孵る

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